今回は電子帳簿保存法のお話から外れてしまいますが申し訳ございません。
デロイト トーマツ グループの有限責任監査法人トーマツ(東京都千代田区、包括代表 國井泰成、以下トーマツ)は、過去の不適切な財務データをAIに学習させることで、会社、勘定科目単位で不正を検知する不正検知モデルを今般開発し、2022年1月から本格導入を開始するとのことです。トーマツは従前から活用していた仕訳分析モデル(Audit Analyticsツール「Magnet」)や異常検知モデル(2017年8月特許取得済)と組み合わせて、不正リスク評価から、対応手続の立案まで網羅的にAI・アナリティクスを活用するアプローチを確立したということです。トーマツは、不正検知モデルの開発などAIの活用を通じて、AI・データドリブンによる監査の高度化を目指しているとのことです。
2015年以降、不適切会計が明らかになった企業の数は増加しており、コロナ禍による業績不振も勘案すると、今後もこの傾向は続くと予想され、こうした不正の発生は、企業に大きな損失をもたらすものであり、いかに不正リスクを抑えるかが急務の課題であると言えます。
これまでのやり方では、監査人は監査先の財務データに対し、異常とみなす基準値や予算との比較、前期からの趨勢把握などによって、監査で重点的にフォローするグループ会社や勘定科目を選別していましたが、トーマツが今回開発した不正検知モデルは、上場企業の過去の不正の傾向をAI・機械学習モデルに学習させているため、監査人は監査先から財務データを入手し、不正検知モデルにデータを投入することで、予測モデルによる不正スコアの計算が実施され、不正リスクが高い会社、勘定科目及び財務指標を識別することができるとのことです。これにより監査人は不正リスクの分析を効率的に行うとともに、従来は識別しえなかった不正パターンの識別が可能となっており、不正検知モデルで検知された不正の兆候に基づいて監査人が監査先企業との議論をより深化させることで企業のガバナンス向上に貢献するとのことです。
監査業務におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)というか、会計監査の業界にも理系の波が押し寄せている感じですが、このような監査のやり方が今度どの程度一般化するかは定かではありませんが(例えば業績好調であった会社がコロナ・パンデミック等の異常事態により突然の大幅な業績悪化の状況に陥った場合、不適切会計に走るインセンティブはかなり高いと思いますが、このようなモデルで事前にそれを検知するのはなかなか難しいのではと思います。また、内部統制上の問題に起因する企業不正(例えば購買部の主要なポストに同一人が長期間就いていて仕入先と癒着し長年キックバックを得ていた場合)に同モデルがどの程度有効なのかという気がします。しかし、いずれにせよ監査業務もAI化の波を避けて通ることは出来ず、いずれ中小監査法人でも対策を講じていかなければいけない可能性は高いと言えます。
次回からまた改正電子帳簿保存法のお話に戻りたいと思います。